溶接ヒュームの測定について

2021年4月1日から「溶接ヒューム」が、特定化学物質障害予防規則の規制対象になります。
継続して金属アーク溶接作業等を行っている屋内作業場では、空気中にマンガンなどを含んだ特定化学物質、溶接ヒュームが発生しています。
この度、特定化学物質障害予防規則の規制対象に追加されることにより、2022年3月31日までに溶接ヒューム濃度の作業環境測定を行う必要があります。ラボテックでは、溶接ヒューム濃度の作業環境測定を行っており、下記へ詳しく掲載しておりますのでご覧ください。

アークとは?

アークとは放電現象の一種です。金属に電極を接触させて電流を流し、電極を引き離すとアークが発生します。アークは高温で強い光を発するのが特徴で、金属の接着や切断に用いられます。

アーク溶接作業とは?

「金属アーク溶接等作業」とは、金属をアーク溶接する作業、アークにより金属を溶断やガウジング(はつり)する作業を言います。溶接作業には様々な原理のものがありますが、「金属アーク溶接等作業」に該当するものを右図に示します。 溶接、溶断、ガウジングであっても、燃焼ガス、レーザービーム等を熱源とする作業は対象に含まれません。

溶接ヒュームとは?

金属アーク溶接等作業を行った際に発生する細かい粒子を溶接ヒュームと言います。煙のように見えますが、アークの熱によって溶かされた金属等が蒸気となり、その蒸気が空気中で冷却され細かい粒子となったもので吸い込むことで健康被害が懸念されます。

金属アーク溶接等作業の法改正について

アーク溶接時の溶接ヒュームの濃度測定はいつから?

「金属アーク溶接等作業」の測定は、既に作業実施のある職場では2021年4月1日からの1年間に実施が求められます(2022年4月1日以降に、新規に実施が始まった職場では速やかな測定の実施が求められます)。

溶接ヒュームの作業環境測定の目的

この測定は安衛法65条の「測定の実施→評価→環境改善→労働者の健康」を目的とした作業環境測定とは異なり、「均等ばく露作業」ごとに、着用するべき呼吸用保護具を選択することを目的とした適切な防護マスクを選ぶための測定です。

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均等ばく露作業とは?

「均等ばく露作業」とは、金属アーク溶接等作業の方法が同じで、溶接材料・母材や溶接作業場所の違いが、労働者のばく露する溶接ヒュームの濃度に大きな影響を与えないことが見込まれる作業とされています。
言い換えると、ほぼ同じ溶接材料・母材を用いて、極端に離れすぎない作業場所で行われている、同じ原理の金属アーク溶接等作業が「均等ばく露作業」です。
「金属アーク溶接等作業」を行う労働者が2名以上の場合、そのグループが「均等ばく露作業」の作業者グループとなります。
ある工場建屋に複数の「均等ばく露作業」が存在する場合、「均等ばく露作業」ごとに測定を実施するのが望ましいです(下図のパターン2)。同じ金属アーク溶接等作業であっても、工場建屋が変われば別々の「均等ばく露作業」と考えるべきです(下図のパターン3)。

職場によってはさまざまな溶接材料(溶接棒)や金属材料(母材)が用いられ、その組み合わせは多数に及ぶと考えられます。
溶接材料や母材の全ての組み合わせに対して測定を行うことは、必須ではありません。
少なくとも実施するべきは、溶接ヒュームの発生が最も多く、健康リスクが最も懸念される「均等ばく露作業」での測定です。
その結果から選定した呼吸用保護具を、その作業エリアで行われる「金属アーク溶接等作業」に従事する、全ての労働者が着用すれば問題ありません。
ただし、同じ作業エリアで、溶接ヒュームの発生が明らかに少ない作業(測定した作業とは別の「均等ばく露作業」)があり、そちらではより軽い呼吸用保護具を使用したい場合等では、高濃度と低濃度のそれぞれの「均等ばく露作業」を対象に測定を実施、結果に応じた呼吸用保護具の選定・使用を進めるのが良いと考えられます。

ラボテックでの作業環境測定について

測定方法(デザイン・サンプリング)

溶接ヒュームのサンプリング(測定)は「均等ばく露作業」ごとに、「金属アーク溶接等作業」を行う労働者2名以上を選定、サンプリング対象とします。
この2名以上は「均等ばく露作業」グループで代表的な作業を行う方であるべきなので、お客様と弊社測定担当者で調整させていただくのが望ましいです。サンプリングは労働者の方の腰にポンプを装着、襟に小型のサンプラー(ろ紙ホルダー)を装着していただき実施いたします。
作業に従事いただく間、ポンプを稼働させ、サンプラー内のろ紙に呼吸域の空気を採取しますので、協力いただく方の作業負担もあるのですが、ご理解いただけますと有り難いです。

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サンプリング測定時間

サンプリング時間は「金属アーク溶接等作業」の開始から終了までです。
「金属アーク溶接等作業」に関係する、準備や後片付けといった付随作業時間も、サンプリング対象時間として良いと解釈できます。

サンプリングは「金属アーク溶接等作業」に従事する1作業日における全時間で行います。
例えば、朝8時半から夕方16時半まで作業が行われる場合は、開始から終了までの7時間から食事などの休憩を除いた時間がサンプリング時間となります。
作業が継続している間は、サンプリング時間の短縮は認められませんが、朝9時から11時までの2時間で当日の作業が終了する場合は、サンプリングは2時間のみの実施となります。作業が更に短時間であっても同様です。

「均等ばく露作業」に該当する労働者が複数存在せず、1名のみの場合には、この1名に対し、2作業日について測定を行います(評価には2つ以上のデータが必要なため)。
例えば、月曜日に1日目、翌日の火曜日に2日目のサンプリングを実施する等のスケジュールとなります。

原則として「金属アーク溶接等作業」以外の時間(他の作業場へ移動した時間や休憩時間等)にはポンプを一時停止させ、サンプリングを中断します。ただし、「金属アーク溶接等作業」以外の時間に妨害物質の影響が考えられない場合は、ポンプを一時停止せず連続的にサンプリングを行っても良いとされています。
その場合、以下の②のように濃度算出します。

① 分析値÷サンプリング時間 = 濃度
② 分析値÷(サンプリング時間 - 休憩時間等) = 濃度

分析・評価

  • 分析対象は吸入性の全ての粉じんではなく、吸入性のマンガンのみです。
    吸入性とは人の肺に到達する粒径4μm前後の粉じん等の物体を指します。
  • サンプラー内部にセットしたろ紙がサンプルとなります。
    これを酸などで前処理した後、吸光光度法または原子吸光光度法等の分析装置を用いて分析を行い、数値化します。
  • 得られた2つ以上の値(2名以上の労働者の値)のうち、最高値を代表測定値とします。
    代表測定値以外の値は評価に使用しません。
  • マンガンの管理濃度(作業環境測定の評価で使用する基準値)である0.05mg/㎥(2021年4月1日に従来の0.2 mg/㎥より変更)に対して、代表測定値が何倍にあたるかを求めます。これが呼吸用保護具選定のために用いる要求防護係数となります。

防護係数と呼吸用保護具について

  • 防護係数とは呼吸用保護具(防じんマスク)の防護性能を数値化したもので、数字が大きいほど高性能です。防護係数は防じんマスクの面体形状、電動ファンの有無、ろ過フィルターの種類の組み合わせで決まり、一般的に防護係数の数字が大きい高性能な呼吸用保護具ほど重装備で、呼吸し辛く、導入や維持コストも高額になります。
  • 「均等ばく露作業」に従事する労働者は、算出された要求防護係数以上の防護係数を持った呼吸用保護具を選定し、着用する必要があります。

例)
代表測定値0.60 mg/㎥の場合
0.60 mg/㎥÷0.05mg/㎥=12…要求防護係数
すなわち防護係数12以上の呼吸用保護具を選定し着用する必要があります。

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報告書について

報告書記載事項について

測定結果報告書には測定に協力いただいた労働者の氏名は記載いたしません。

記載は労働者番号のみで、2名で測定の場合は労働者①、労働者②と表記します。

測定結果報告書の取り扱い

  • 測定を行う日よりも前に、現場の情報(労働者数や作業スケジュール、休憩時の状況等)について教えていただきたいです。 測定当日の計画を立てるためです。
  • サンプラー等へ、意図的に高濃度の溶接ヒュームを浴びせたり、
    たばこの煙などを吸引させると正確な測定値が得られないことがあるので注意をお願いします。
  • サンプリング機材は、衝撃や高温に対してある程度の耐久性を持ったものですが、扱いは慎重にお願いします。
    ポンプとサンプラーを繋ぐチューブが鋭角に曲がると、ポンプに負荷がかかり停止することがあります。
    時々、ポンプの稼働状態をご確認ください。
  • 測定環境の粉じん濃度が高い場合、適切なサンプリングが継続できないことがあります。
    そのため、サンプリング途中にサンプラー(ろ紙)の交換が必要な場合があります。
    またポンプのバッテリー消耗によっては、サンプリング途中に電池交換が必要な場合があります。

規制のスケジュール

現在「金属アーク溶接等作業」の作業実施のある職場では2021年4月1日からの1年間に測定の実施が求められます。
その他のルールは2022年4月1日からスタートします。

※上記スケジュールは今後、変更・修正が行われる場合もござます。

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