土壌汚染の最新事例を紹介!事例から相違点や共通点も解説
土壌汚染は、工場跡地や開発予定地などで突如として発覚し、健康リスクや土地利用への影響をもたらす重要な環境課題です。
過去の有名事例からも分かるように、土壌汚染の原因や対応方法には多様なケースがありますが、共通するリスク構造も存在します。また、日本と海外では法制度や再開発のアプローチにも違いがあります。
本記事では、これまでに公表された代表的な土壌汚染事例の共通点・相違点を解説するとともに、実際に対応した現場の具体例もご紹介します。現場対応や制度活用を検討する企業や自治体にとって、実務的な理解を得られる内容です。
土壌汚染とは?概要などを解説
土壌汚染とは、本来人間の健康や生態系に悪影響を与えるべきではない土地の土壌中に、有害な化学物質や重金属類などが異常に蓄積・残留する状態を指します。土壌汚染の原因は、かつての工場操業や化学物質の漏洩、不適切な廃棄物の埋設など多岐にわたります。
これにより、地下水の汚染や野菜・地下水の摂取を通じた人体への悪影響が生じる可能性があります。特に揮発性有機化合物や鉛・砒素などの重金属類は、無色・無臭であるため目に見えず、長期にわたり潜在的なリスクとなります。国は「土壌汚染対策法」に基づき、調査・措置・情報公開を義務付けています。
土壌汚染の原因や土壌汚染対策法に関しては、以下の記事も参考にしてください。
土壌汚染対策法についてわかりやすく解説!対象や届出に関しても紹介
土壌汚染の原因とは何?対策や実際の事例を紹介
自社で実施した土壌汚染調査の実例紹介
当社では、法対応や事業リスクの評価、地域説明などさまざまな目的に応じて土壌調査を行ってきました。以下に、代表的な4件の事例を紹介します。
事例1.閉店したクリーニング店跡地での簡易調査
閉店したドライクリーニング店舗跡地にて、過去に使用されていた溶剤に着目した土壌簡易調査を実施しました。
過去に洗浄作業が行われていた現場であったため、揮発性有機化合物の残留リスクが懸念されていました。
調査の結果、大きな汚染は確認されませんでしたが、売却前に土地の状態を明確に把握することができ、売り手・買い手双方の判断材料となりました。簡易調査でもリスク認識の精度が高まり、スムーズな契約成立を行いました。以下の画像は、実際の作業風景になります。
▼土壌採取詳細画像
【表層】
【ボーリング状況】
【検尺】
事例2.工場敷地内での油分(TPH)汚染調査
工場内の地中から油臭が確認され、油膜が発生しているとの報告を受け、全石油系炭化水素(TPH)を対象とした土壌調査を実施させていただきました。
調査の結果、地下に油分が滞留していることが明らかとなり、メッシュ状に設置した観測井戸から油分を抜き取る処置を行いました。
これにより、下流の地下水への汚染拡散を事前に抑制し、環境リスクを低減いたしました。地元への配慮も重要な観点で、依頼者からは「残留リスクの可視化ができた」と高評価をいただきました。
事例3.経営統合に伴う整備工場跡地の地歴調査
大規模な整備工場の経営統合にあたり、18万㎡に及ぶ敷地の土壌リスクを評価するため、地歴調査と表層土壌の調査を短期間で実施しました。
汚染の有無や対象範囲を明確にすることは、浄化費用や土地取引の責任範囲を事前に整理するために不可欠です。依頼主は東京の企業で現地対応が困難だったため、当社が現地調査から関係機関との調整まで短納期で一括対応させていただきました。
事例4.某庁舎移転地の調査
某庁舎移転に伴い、既存建物の残る約3700㎡の土地で土壌調査を実施。フェーズ1(地歴・資料調査)からフェーズ3(追加サンプリング)までを段階的に行い、行政との協議を重ねながら調査を進行しました。
有害物質の使用履歴は確認されなかったものの、自然由来と考えられる砒素が検出されています。この結果を踏まえたリスク評価も実施済みです。調査は新聞に取り上げられるほど注目を集め、周辺住民への情報開示にもつながりました。報告資料の信頼性という点でも高い評価を得ています。
その他の土壌汚染の最新事例(環境省の最新事例)
環境省が公表する令和5年度の土壌汚染に関する統計・報告からは、全国各地でさまざまな形で汚染が発覚し、それぞれに応じた対策が講じられている実態が浮かび上がります。
ここでは法に基づいた調査ごとの代表的な事例や、特定有害物質の傾向、さらに地方自治体や民間による対応の動きまで、最新事例をカテゴリ別に整理して紹介します。
事例1. 法第3条調査で明らかになった鉛汚染──旧有害施設跡地に潜むリスク
令和5年度、全国で902件の有害物質使用特定施設が廃止されました。これらの施設跡地に対して、土壌汚染対策法に基づく「法第3条調査」が237件実施され、鉛や砒素、六価クロムといった重金属類による土壌・地下水汚染が相次いで確認されました。
特に鉛は、土壌中に残留しやすく、水に溶けると地下水へ移行し、人間による摂取リスクが高まります。
実際の事例では、地下水摂取による健康リスクが指摘され、地下水の水質測定に加え、汚染土壌の掘削除去が取られました。旧工場跡地のように過去の操業履歴が不明確な土地では、開発前に履歴調査を行い、必要に応じて土壌調査を実施することが大切です。
これらの調査と対策の流れは、地域住民の健康被害を未然に防ぐだけでなく、不動産開発や都市計画における信頼性確保にも直結します。土壌汚染は目に見えない環境リスクであるからこそ、制度に基づく調査と継続的な監視が必要です。
参照:【環境省】令和5年度 土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果
事例2. VOC汚染が判明──法第4条の形質変更時調査における都市開発の影響
都市部で再開発が活発化する中、土地の掘削や盛土、用途変更などが行われる際には形質変更時の調査が義務付けられています。令和5年度には全国で375件の届出があり、そのうち多くの事例でベンゼン、トルエン、トリクロロエチレンなどのVOC(揮発性有機化合物)が環境基準値を超えて検出されました。
これらの物質は石油製品や洗浄剤、金属加工工場などで使用されているもので、空気中へ揮発しやすく、呼吸器系を中心とした人体への健康被害を引き起こす可能性があります。
土壌から室内空間へのガス移行(Vapor intrusion)も懸念されるため、原位置封じ込め、舗装、または掘削除去といった対策が取られます。
さらに地下水への移行による飲用リスクも無視できず、浄化施設と連携した処理が求められるケースもあります。都市部での土地利用変更では、汚染の有無をあらかじめ把握し、適切なリスク管理を行うことが、将来的な住民トラブルや開発遅延を防ぐうえで極めて重要です。
参照:【環境省】令和5年度 土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果
事例3. 自主調査で判明した複合汚染──法第14条申請による企業主導の対応事例
土壌汚染対策法において、土地所有者や企業が自主的に調査申請を行う「法第14条申請」は、開発予定地や工場跡地の環境リスクを能動的に評価する制度です。
令和5年度にはこの申請によって、多数の複合汚染が発見されました。具体的には、六価クロム、砒素、カドミウムといった発がん性や急性毒性のある重金属類が同一地点で検出されたケースが報告されています。対応としては、汚染源の掘削除去が基本となるものの、開発計画の制約や周辺環境への配慮から、盛土による隔離や舗装による封じ込め、立入制限などが組み合わされることもあります。
これにより、直接摂取や揮発性汚染の拡散を防止しつつ、安全な土地利用が可能となります。企業による自主調査は、行政の指導を待たずに環境リスクへ積極的に取り組む姿勢を示すものであり、近年はESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点からも重要性が高まっています。地域社会との信頼関係を築く上でも、自主的な情報公開と適切な対策の実施が期待されます。
参照:【環境省】令和5年度 土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果
事例4. 処理施設廃止時に浮上したフッ素汚染──未処理土壌のリスクと再対応
土壌汚染対策法では、汚染土壌処理施設の廃止や許可取消時に「省令第13条」に基づく調査が義務付けられています。令和5年度にはこの過程で、フッ素やその化合物による汚染が複数件明らかとなりました。
これらは処理施設の一部未対応領域や、かつての仮置き場に残された汚染土壌で発見されたもので、制度上の処理完了報告がなされていても、実態としては不十分だったケースも含まれています。フッ素は環境中で極めて安定し、飲料水経由で人体に慢性的な影響を与えることが懸念されるため、再調査と再処理が強く求められました。
具体的には掘削除去した土壌を、適正な許可処理施設へ搬出し、焼成または化学処理を施すことで、ようやく安全性が確保されました。このような事例は、制度運用における「形式的完了」と「実質的安全性」の乖離を示しており、処理後も中長期的に調査を行う必要性を浮き彫りにしています。廃止後の土地利用計画がある場合は、地歴管理とともに、残存リスクの見直しも欠かせません。
参照:【環境省】令和5年度 土壌汚染対策法の施行状況及び土壌汚染調査・対策事例等に関する調査結果
日本・世界で有名な土壌汚染などの事例
日本では、近代化や高度経済成長の過程で深刻な環境公害が数多く発生し、土壌や水質への影響が社会問題となりました。特に戦後から昭和期にかけては、鉱山や工業地帯での有害物質の排出により、土壌汚染が原因となった健康被害が各地で発生しています。これらの事例は、現在の土壌汚染対策法や水質汚濁防止法などの環境法制の成立を後押しする大きな出来事となりました。
イタイイタイ病──カドミウム汚染による日本初の公害病
富山県神通川流域で発生したイタイイタイ病は、日本で最初に公的に認定された公害病です。原因は神岡鉱山から排出されたカドミウムを含む廃水が農地に使用され、汚染されたコメを食べた住民に健康被害が生じたことにあります。
骨がもろくなり激痛を伴う病状が「イタイイタイ病」と呼ばれる由来です。1968年に国が公害病と認定し、企業に賠償と浄化措置が命じられました。この事件は、土壌・水質汚染による人体被害の深刻さを社会に知らしめ、環境法整備の重要な契機となりました。
足尾銅山鉱毒事件──明治日本を揺るがせた鉱毒公害
明治時代、栃木県の足尾銅山から排出された鉱毒(銅・ヒ素など)が渡良瀬川に流れ、農地や家畜、住民の健康に甚大な被害を及ぼしました。これが日本初の大規模公害とされる足尾銅山鉱毒事件です。
農民たちの嘆願を受け、田中正造が1901年に天皇に直訴した行動は社会的な大反響を呼びました。政府は遊水地整備など対策を講じたものの、問題は長期化しました。この事件は、近代産業と環境保全の対立を象徴し、日本の公害政策と土壌・水系管理の原点として位置づけられています。
水俣病──メチル水銀による環境と人への深刻な影響
水俣病は、熊本県水俣市で発生した有機水銀(メチル水銀)による公害病で、1956年に公式確認されました。原因はチッソ水俣工場が排出した廃水に含まれる水銀が魚介類に蓄積し、それを摂取した住民に神経障害が多発したことです。
視野狭窄、言語障害、歩行困難など重篤な症状が見られ、死者も多く出ました。水俣病は世界的にも注目された環境汚染事件であり、公害の健康被害、企業責任、環境モニタリング体制の強化など、多くの教訓を残しました。
土壌汚染の事例から見る対策方法とは?
工場跡地や開発予定地などで判明する土壌汚染は、人体や環境への深刻なリスクを伴います。過去の事例を振り返ることで、有効な対策方法の選択と計画が可能となります。以下では、主要な3つの対策方法を、具体的な事例とともに紹介します。
掘削除去:汚染土壌を物理的に取り除く基本対策
掘削除去は、汚染された土壌を機械で掘り出し、適切な処理施設へ搬出して浄化または無害化する方法です。特に鉛や砒素など重金属類が高濃度で検出された場合に有効で、法第3条の調査後に最も多く採用されています。
たとえば令和5年度には、地下水摂取リスクがある鉛汚染地で掘削除去が実施され、約5万㎥の土壌が安全に搬出処理されました。この方法は確実性が高い一方で、費用や工期、周辺環境への影響を考慮する必要があります。
原位置処理・封じ込め:開発地の利用を前提とした低コスト対策
VOC(揮発性有機化合物)や軽度な重金属汚染では、汚染土壌を掘削せずその場で封じ込めたり化学的に不活性化する「原位置処理」が選ばれることがあります。都市部の再開発地などで、土地利用を止めずに対応したいケースに適しています。
例えば、ベンゼン汚染が確認されたある開発地では、原位置での中和処理と舗装による封じ込めが組み合わされ、安全性を確保しながら開発が継続されました。リスクベースでの判断が重要であり、専門的なモニタリングが求められます。
盛土・舗装・立入制限:低リスク汚染に対する簡易措置
土壌汚染が軽微で、直接摂取によるリスクが主な場合は、盛土や舗装、立入制限といった簡易的な対策も有効です。これらは特に、旧住宅地や中小規模の事業所跡地で用いられるケースが多く、環境省の令和5年度報告でも、複数の事例で盛土+舗装による措置が取られました。
たとえば、カドミウムが基準をわずかに超過していた住宅予定地では、50cmの盛土とアスファルト舗装で安全を確保し、開発を実現しています。この方法は費用対効果が高く、住民の理解を得やすいという利点もあります。
土壌汚染の事例から見る現状の法律
日本では、土壌汚染による健康被害や土地利用の支障を防ぐために「土壌汚染対策法」が整備されています。たとえば令和5年度には、有害物質使用施設の廃止に伴う調査で鉛や砒素の汚染が多数判明し、掘削除去や地下水の監視が行われました。同法では施設廃止時(第3条)や開発時(第4条)、自主調査(第14条)など、ケースに応じた対応が義務化されています。
さらに東京都などでは条例により国の基準を補完し、小規模土地も対象にするなど地域独自の対策も進んでいます。法律は実際の汚染事例を通じて実効性を高め、改正や運用強化が続けられています。
土壌汚染の事例に関するよくある質問
土壌汚染の事例に関するよくある質問として以下の3つを解説します。
- 土壌汚染の事例ごとに見られる相違点とは?
- 土壌汚染の事例に共通する特徴は?
- 日本の土壌汚染事例と海外の違いは?
最後まで見れば、土壌汚染の事例から相違点や共通点がわかるため、自身の場合にも置き換えて考えることができるでしょう。
土壌汚染の事例ごとに見られる相違点とは?
土壌汚染の事例は、発生原因や汚染物質、被害の影響範囲によって大きく異なります。たとえば、鉛や砒素のような重金属による汚染は、工場跡地や鉱山周辺で多く見られ、主に地下水への溶出が問題となります。
一方、VOC(揮発性有機化合物)は都市部の洗浄施設跡地や自動車工場跡地で多く、空気中への揮発や室内空間への移行がリスクです。また、対策方法も、除去・封じ込め・舗装などリスクに応じて異なります。
土壌汚染の事例に共通する特徴は?
多くの土壌汚染事例に共通しているのは、主に以下の特徴です。
- 長期間にわたり気づかれにくい
- 過去の土地利用が関係している
- 人の健康や開発に支障を与える
特に、旧工場地や廃止施設などで発見されやすく、汚染の原因行為から何十年も経ってから問題化することもあります。また、地下水や大気など他の環境媒体にも波及することが多いため、リスク評価と段階的な対策が共通して求められます。
日本の土壌汚染事例と海外の違いは?
日本では土地履歴や開発との関連で土壌汚染が発見されることが多く、調査や措置は法的に義務化されています。
一方、アメリカや欧州では、スーパーファンド制度やブラウンフィールド再生など、より経済再生と環境対策を結びつけた制度が整備されています。汚染物質の種類は共通するものもありますが、対策手法や土地再利用の考え方には違いがあり、日本では安全性重視、海外ではリスク受容と再開発重視の傾向があります。
土壌汚染の不安があるなら、指定調査機関のラボテックに相談!
土壌汚染は、クリーニング店跡地や工場、庁舎移転地など、私たちの身近な土地でも発生しうる環境リスクです。実際の調査事例からは、鉛・砒素・VOC・フッ素などの有害物質がさまざまな形で検出されており、原因や汚染範囲も多様であることが分かります。
また、過去の歴史的な公害事件(イタイイタイ病、水俣病など)と比べても、現代の汚染は見えにくく、制度や技術を駆使してリスク管理を行う必要性が増しています。対策方法も掘削除去・原位置封じ込め・盛土・立入制限など、リスクに応じた多様なアプローチが求められています。
土壌汚染は発見まで時間がかかる上、健康や土地利用に深刻な影響を与える可能性があります。だからこそ、過去の事例を学び、予防・早期発見・制度活用の重要性を理解することが、私たちの安心・安全な環境づくりにつながります。
もし、土壌汚染の不安を感じているなら、今すぐ指定調査機関のラボテックにご相談ください。